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March 15, 2006

本を売った

▼と言ったって、俺の個人蔵書ではない。俺の大切な蔵書を誰が売るもんかい。売ったのは職場のレイアウトを変更するにあたって置き場所に困った会社の蔵書の一部である。廃品回収業者が来た時にでもゴミと一緒に引き取らせようと皆が言う中で、「だったら古本屋に売りに行った方がいい。そうすりゃ多少なりとも現金になるはずだから、その金は職場旅行の飲み物代の足しにでもしてはどうか」と提案したのはもちろんこの俺だ。そう口にした責任もあり、俺自らが古本屋に売りに行くことになった。
 本はほとんどが函付きの一見すれば高そうなものなのだが、ヤクザまがいの怪しげな団体に脅されて買った定価が一冊1万8千円もするような同和文献資料だとか、ワケの分からぬ業界団体の創設何十周年記念の饅頭本のようなクズ本ばかりが段ボールにおよそ二箱分ほど。こんな本、買う奴なんているもんかい。
 とはいえ、せめてまとめて2千円くらいでは引き取ってくれるのではないか……との目算で会社の近くの古本屋へと持ち込んでみた。店番の女性から、今日は主人が不在で値が付かないので後ほど連絡します……と言われたのが先週の金曜だ。そのことをすっかり忘れて週が明けた月曜になってその古本屋の店主から電話が入った。
「先日お預かりした本、ほとんどが店に置いても売れそうもない本ばかりなんですが、一冊だけ1,500円で引き取らせて戴きます。それでよろしいか?」
 やはりな。2千円にでもなれば……という俺の見立てはほぼピタリ賞だったわけだ。「えぇ、その値段で結構ですよ」と電話で告げて、昼休みに再び古本屋へと向かった。
 古本屋に着くと顔馴染みの店主が「おやおや、電話の相手は貴方でしたか。だったらもう何冊か引き取ってあげても良かったですな」と苦笑いしながら言う。「いえいえ、こんな本、店にあってもどうせ邪魔なだけでしょうから」と俺も苦笑しつつ返事を返す。「で、残りの本はどうします?」と訊く店の親爺に向けて「まぁ、適当に店で処分しといて下さい」と言おうとして、一瞬、待てよと思いとどまる。近くのBOOK-OFFにもしもこの段ボールをそのまま持ち込んでみたらいったいどうなるんだろう。俺は今までBOOK-OFFに本を一度も売ったことがない。BOOK-OFFに試しに本を売ってみるってのも貴重な人生経験の一つになるんではなかろうか。「じゃあ残りは持って帰ります。駄目モトでBOOK-OFFにでも売りに行ってみますわ。ははは」と笑うと、店の親爺も「さぁ、果たして引き取ってくれますですかな、ははは」と笑いを返した。
 で、向かった先は近くのBOOK-OFF。アルバイト店員に本の引き取りを頼んで店内で待つことしばし。「**様、本の査定が終わりましたぁ」という店内放送が響く。はてさて、如何ほどで引き取ってくれるものかと思いつつカウンターに向かうと、アルバイト店員の曰く……。

「え~、全部で2万5百円になりますが、これでよろしいでしょうか?」

 ……一瞬、何かの悪い冗談なのかと思いました。
 文句の一つもあるもんかい。良いに決まっているではないかっ。万札2枚と500円玉を受け取って逃げるようにしてその場を立ち去る。何一つ悪いことはしてないってのに。
 で、本を売ったその金は領収書があるわけでも無し。「わぁ、古本屋さんに持って行ったらこんなに沢山お金が貰えたよぉ!」と小躍りしながら会社に戻り、とりあえず2千円ほど入金したその足で残りの金を握りしめてマカオあたりに高飛びしても良かったのだが、その程度の金で俺の人生を棒に振ってどうする。古本屋とBOOK-OFFで現金化した全額を正直に会社に納めました。
 今回の件で唯一の着服行為といえば、それはBOOK-OFFのサービス券だなぁ。BOOK-OFFで買い物した際に購入金額500円毎に貰える50円分の割引サービス券。初めて知ったが、あのサービス券って買った時だけじゃなくてBOOK-OFFに本を売った時にも貰えるんだね。今回はおよそ2千円分のサービス券が貰えました。こんなものを会社に持って行ってもゴミと一緒に捨てられるだけなので、誰が考えても最も有意義にこのサービス券を使ってくれそうなこの私がお駄賃代わりに戴いておくことにしました。あぁ、確かにそういう意味では立派な着服だよ、業務上横領だよ。悪いか(-_-;)凸。

▼BOOK-OFFの引き取り本の査定方法は、店に持ち込まれた中古本の発行年度とその本の状態(注)によって定価の何%で引き取ればよいかが書かれた買取マニュアルがあります。よって本に関する知識がまったく無く漢字で自分の名前すら書けないようなアルバイト店員(←言い過ぎ)でも本の買い取りが可能になるわけです。どんなに古書的価値のある本でもBOOK-OFFに掛かれば、引き取り価格は全て定価の数%。明治大正に発行された稀覯本でも引き取り価格は定価の数%……ってことは銭単位か?
 逆に考えると、BOOK-OFFに売る目的で定価を30万円くらいに設定した本をでっち上げれば、いい値段で引き取ってくれる可能性もあるわけだ。資金繰りに困ったどこかの出版社の皆さん、このアイデアを買ってはもらえませんかぁ?

▼で、貰ったBOOK-OFFのサービス券を使って買ったのは、DVDの「ロード・オブ・ザ・リング 二つの塔 スペシャル・エクステンデッド・エディション」。箱の状態があんまり良くないせいなのか、付けられた売値が4,400円ということなので、サービス券を有効活用して2千円で買えました。「指輪」三部作中、これで残るは「王の帰還」のみとなった。「王の帰還」のスペシャル・エクステンデッド・エディション版もたとえどんな汚い手を使っても必ず安く買ってみせるぜ。

▼店買いした古本は4冊。
 
 石ノ森章太郎「章説 トキワ荘・春」(風塵社、H8、700円)
 マーク・シッパー「ビートルズ奇想天外抱腹絶倒物語 え?」(新興楽譜出版社、1979、100円)
 赤塚不二夫「天才バカボン 別巻1」(曙出版、1974、300円)
 赤塚不二夫「天才バカボン 別巻2」(曙出版、1975、300円)

 「天才バカボン 別巻1~2」は、「天才バカボンのおやじ」という題名で「漫画サンデー」に連載されていたもの。つまり大人向けのバカボン外伝である。マンガの古本は滅多に買うこともないのだが、「天才バカボン」あたりの相場はいくら何でも一冊300円てことはあるまいて……と思って買ったものの、帰宅してからネットで調べてみるとやはり一冊1,500~2,000円くらいで取り引きされているケースが多いようだ。ちなみに70年代に赤塚不二夫の単行本を結構出していた曙出版は石ノ森の「章説 トキワ荘・春」によれば赤塚不二夫の初単行本「嵐をこえて」を出版した出版社。超売れっ子となった後でこうして恩を返していたわけで、赤塚不二夫のキャラに似合わずなかなかに義理堅いと言えよう。

 目録買いでは二冊。

 フランク・ケーン「弾痕」(久保書店Q-T BOOKS、S44、2,000円)
 ニック・カーター「キルマスター/アムステルダムの死」(久保書店Q-T BOOKS、S46、2,000円)

 おいおい。届いた本を見たらどちらも持ってるんじゃねぇの、もしかして?

▼レンタルDVDで、デンマークのラッセ・スパング・オルセン監督のゲット・ザ・マネー。ラッセ・スパング・オルセンといえば、そのあまりにオフ・ビートなストーリー展開と登場人物のキャラの鮮やかさ、そして観た誰しもが口をあんぐりと開けそうなラストまで、アクション映画のツボを押さえつつも良い意味で定型を外しまくった「ゼイ・イート・ドッグス」の監督であり、嬉しいことにこの「ゲット・ザ・マネー」はその「ゼイ・イート・ドッグス」の続編なのである。

 映画は前作の主役である暴れん坊のハロルド(キム・ボドゥニア)がム所から出所するところから始まる。
 ハロルドは仲間のコック2人の待つ自分の店に戻ったが、犯罪組織に昔の借金の返済を迫られ、死に瀕して入院中のハロルドの育ての親ムンクの見舞いに行けば、会った事がないという息子と最後に一目会いたいと頼まれてスウェーデンの重警備刑務所から息子を脱獄させることを計画。しかし肝心のその息子は、何と連続殺人鬼だったのだ!
 ……と、この先、話がどう転んでいくのか、これではさっぱり分からないでしょ? 銃撃戦やカーアクション、銀行強盗に現金強奪、更には飛行機の曲乗りと、映画の中では実に簡単に人が死んでいくしハロルドも何のためらいもなく女を撃つ。無論、連続殺人鬼もどんどん人を殺すのだが、決して殺伐とした印象の残る映画ではないんだよなぁ。面白さでは「ゼイ・イート・ドッグス」の方が勝るが、これはこれで面白い。ガイ・リッチーの「ロック、ストック&ツー・スモーキング・バレルズ」のようなクライム・コメディの好きな人はぜひ一見を。

 他にレンタルDVDで、ベン・スティラーの「ドッジボール」も観る。スポーツコメディにはよくある「負け犬連中が頑張って天下を取る」以上の何者でもない映画。アメリカではそこそこヒットした映画なのだが、やはり知能程度のあんまり芳しくない観客を相手にする映画だよなぁ。俺にはベン・スティラーの面白さもよく分からんし。
 もう一本、「スカイ・キャプテン ワールド・オブ・トゥモロウ」も今頃になってから観た。「キング・コング」を観る前だったらまだ良かったんだけどね。

▼映画は、楽しみにしていた「イーオン・フラックス」。主演のシャーリーズ・セロンが無茶苦茶にキレイであり、純粋にそれだけを楽しむと割り切れば充分に鑑賞に堪え得る作品である。監督はカレン・クサマ。名前の通り、日系の女流監督であり、そう思って観れば和傘や日の丸などのジャパニーズ・グッズが画面のところどころで目についたなぁ。プロモーションでシャーリーズ・セロンは来日したのだが、このクサマ女史は何故だか来日してなかったんじゃないかな。残念ながらも、故郷に錦を飾る……と自分で思えるほどの出来映えではなかったというわけか。上映二日目にして観客の入りはせいぜい2割程度か。

▼新刊。

 上野顕太郎「夜は千の眼を持つ」(エンターブレイン)
 唐沢俊一「奇人怪人偏愛記」(楽工社)
 久住昌之作・谷口ジロー画「散歩もの」(フリースタイル)
 ハーラン・コーベン「イノセント (上・下)」(ランダムハウス講談社文庫)
 桂枝雀「桂枝雀爆笑コレクション 4 万事気嫌よく 」(ちくま文庫)
 色川武大「映画放浪記」(キネマ旬報社)
 オースティン・フリーマン「証拠は眠る」(原書房)
 「本の雑誌 2006/4月号」(本の雑誌社)

 上野顕太郎「夜は千の眼を持つ」はギャグマンガ集。ギャグマンガとして新しい試みに挑戦しているのは分かるのだが、その全てが成功しているとは思えない。残念。唐沢俊一の「奇人怪人偏愛記」は題名通りに古今東西の奇人怪人を紹介しているのかと思いきや、そうではなかったのがこれまた残念である。色川武大の「映画放浪記」は再刊とのことだが、元本を知らなかった。和田誠の「シネマ今昔問答 望郷篇」(新書館)を読んだばかりであり、この手の古めの映画について語った本を何となく読みたくなって購入した次第。「本の雑誌 2006/4月号」の特集は全ての蔵書家が避けては通れない本棚問題を取り上げる。

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ドナルド・フェイゲンの十数年ぶりの新譜「モーフ・ザ・キャット」が出ていると思ってCDショップを覗いてみるが、発売はまだ先だった。代わりにリトル・ウィリーズ「リトル・ウィリーズ」を買って帰る。ノラ・ジョーンズがボーカルをつとめるお友達カントリーバンドで、NYの紫煙たなびくライブバーあたりで気楽に演奏しているような雰囲気がなかなかに心地よい。

(注)「本の状態」ったって、元パラの有無だとか帯欠、著者自筆サイン入りといったものではなく、単に本がきれいか汚いかのみなのだが。

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Posted by: visit the site | May 15, 2014 01:41 PM

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